結論から言うと、
「売買当事者と税務署の見方は違うから気を付けて」
ということです。
上場していれば株価がつきますので、その金額で売り買いすればよろしいですね。
これはわかりやすい。誰の目に明らかな価額です。
しかし、上場していない場合は、市場の株価というのがありませんので、これはさてどうすれば良いのか、何をもって適正な価額とすれば良いのかという問題が生じます。
株価の算定の方法はいくつかありまして、株価を算定したい人は、その算定方法の選択も含めて公認会計士さんに頼むことが多いです。
ただ、その算定価額も算定方法や設定条件によって上下が出てきます。
なので、売り手買い手双方が算定した株価を以て売買の価額交渉がなされることになります。
民法上の契約自由の原則からすれば、売りたい人と買いたい人が双方合意した価額で取引すればいいわけで、「できるだけ高く売りたい」売り手と、「できるだけ安く買いたい」買い手が、交渉し決まった金額は、誰から文句言われる筋合いのものではありません。
極端に言えば、契約自由なわけですから、譲渡契約上の金額はいくらでも、売り手と買い手が合意してしまえばそれで良いことです。1株100万で売りたいという人と100万円で買いたいという人を「うーんダメダメ」と遮断することはできません。100万円と決まれば価額は100万円で有効なわけです。
でも、ですね。
算定した株価が500万円だとしたら。これを(いくら契約自由だからと言って)100万円で売って良いのか、というモヤモヤが生じませんか?
『いやいや、500万円のものを100万円で売るヤツはいないでしょ、非現実的な話じゃない?』
という考え方もあるかもしれませんが、売る側と買う側が結託していた場合、売り手買い手の間に交渉という神の手は働きませんので、検討する意味はありそうです。
安く買いたい、高く買いたい、という意向が、当事者間で一致しているケースでは、価額が恣意的に決められる恐れが強くなります。
これは売り手と買い手が実質的に同一だったり、譲渡益を目的としない、資金準備が追い付かないといった場合に生じます。
例えば、株は売りたいが支配権は維持したい、というような場合があります。
売り手と買い手はほぼ同一になるわけですから、譲渡益を生じさせる意味はありません。
ただ名義が移ればいいということで、取得価額以上のやりとりをして、わざわざ譲渡益に課税されるようなことは望みません。動かしたいだけなので、できるだけコストは払いたくないわけです。
このような場合、株価は当事者間で恣意的に決められることになります。
とはいえ、契約自由の原則です。
いくら恣意的に定められた金額でも当事者間では有効です。
好きな金額にしちゃえばいいわけで、他人にとやかく言われる筋合いはありません。
が、ここで現れるのが税務署さん。
本来500万円で売買されていれば課税できたであろうはずのものが、100万円で売買されることで課税できないとすれば、問題ですよね、嫌ですよね、税務署としては。
というわけで、時価より著しく低い価額で売買しても、時価で売買したとみなして課税しちゃうよ、という決まりとなっています。
譲渡益に対する税率は20%ですから、500万円のものを100万円で“動かした”場合に払わなければならない税コストは(500万円-100万円)×20%の80万円。
実務的にはこの10倍とか20倍とかの金額になることが多いですから、コストも800万円、1600万円と「まあしょうがない」では済まない額になるのが現実です。
そうならないために肝になるのが、時価と「著しく低い」の定義。
ここでの時価は、先ほど株価算定で登場した公認会計士さんではなく、税理士さんの領域です。
というのも、税評価というのはまた一般的な株価評価と違うんですね。
税法はもちろん、通則通達などをよく知らないと間違えてしまいます。
ちなみに非上場の株は「取引相場のない株式の評価」に従って評価することになります。
また、「著しく低い」の定義ですが、こちらは時価の2分の1未満の額とされています。(所得税法)
株を動かしたいが、税コストは可能な限り低くしたい、という方がもしいらっしゃたら、株式の税評価額を税理士さんに出してもらって(もちろん自分で算定してもよいですがプロに頼むのが無難)、算定された評価額で最も税負担が低い金額を検討する、ということになるでしょうか。
譲渡なんか適当にやりゃいいじゃん、当事者間は自由だよ、とたかをくくっていると後から税務署からガツンやられる“かも”しれませんので、株を動かすときは、よくよく考えてから実行することにいたしましょう。少なくとも、なぜその金額なのか、が説明できるようにはしておきたいですね。
池田
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