保証債務の整理についてはまず大きく3つに記載が分かれています。
第一に、対象となる保証人について。
第二に、保証債務の整理の手続きについて。
そして第三に、保証債務の整理を図る場合の対応について。
整理時の対応についてはかなりしっかりと記載されています。
まずはガイドラインに基づく保証債務の整理の対象となる保証人について見ていきましょう。ついては以下3つの要件が書かれています。
・主たる債務者が法的債務整理手続き開始の申立て、または準則型私的整理手続の申立てを行ったこと。
・破産よりも多くの回収が見込まれる経済合理性があること。
・免責不許可事由ないこと。
これが満たせないと対象となりません。
さて、満たされるとなれば、次は保証債務の整理の手続きです。
この手続きについては2つの方向性から書かれています。
一つは、主債務と保証債務を一体整理する場合、もう一つは、一体整理しない場合です。
前者について、主たる債務の整理を準則型私的整理を利用する場合は保証債務も同様に、原則として準則型私的整理手続を利用することになります。後者については、原則として準則型私的整理手続を利用することとされています。
なるべく法的な整理をしないよう、信用棄損の負担を減らそうという意図が見えますね。
さて、最後の最後、保証債務の整理を図る場合の対応ですが、対象債権者は「合理的な不同意事由」が無い限り、債務整理手続きの成立に向けて誠実に対応する。」となっています。ちなみに「合理的な不同意事由」とはどのようなものかと言うと、想定問答集によれば、「保証人が、ガイドライン第7項(1)の適格要件を充足しない、一時停止等の要請後に無断で財産を処分した、必要な情報開示を行わないなどの事由により、債務整理手続の円滑な実施が困難な場合をいいます。」だそうです。
そして、対応の方針に関しては以下のとおり、記載があります。
1.一時停止等の要請への対応
2.経営者の経営責任の在り方
3.保証債務の履行基準(残存資産の範囲)
4.保証債務の弁済計画
5.保証債務の一部履行後に残存する保証債務の取扱い
以上5項目だけで数ページ要してしまうボリュームなので、それぞれできるかぎり掻い摘んでその内容をお伝えすることにいたしましょう。
まず1.一時停止等の要請対応について。
一時停止や返済猶予の要請には誠実かつ柔軟に対応するよう努めること、とあります。
要件は、
・債務者、保証人、支援専門家が連名した書面(全債権者の同意がある場合不要、保証債務のみの整理は保証人と支援専門家の連名で可)
・全債権者に同時に行うこと。
・誠実に対応できると判断されること。
となっています。
次に2.経営者の経営責任の在り方についてですが、準則型私的整理手続きにより一体整理を図る場合、一律かつ形式的に経営者の交代を求めないこととされています。
法的整理手続きの考え方との整合性に留意、ともありますが、責任論は債権者からとかくいわれがちなことですので、こうしてはっきりと一律かつ形式的には求めない、と明記されるのは画期的かと思います。これにより再生局面における再生スキーム導入に関する経営者の心理的・感情的ネックや、経営者交代による信用棄損を避けられるのはありがたいことです。
しかし、経営者交代を求めないについて検討することとして、窮境原因に対する帰責性、経営資質や信頼性、経営者の交代が再生計画に与える影響度、金融支援の内容、があげられています。経営者に大きな問題がなく、リスケ程度であるならば経営者交代は求めない、ということになりますでしょうか。となると、従前とあまり変わらないかもしれませんね。
また、私的整理時に経営者が引き続き経営に携わる場合は、保証債務の履行や役員報酬の減額、株主権の全部または一部放棄(これは厳しい)、退任など責任を取らねばならぬようです。
新聞紙上でもよく報道されている、保証人でも全部は取られない的なお話が3.の保証債務の履行基準(残存資産の範囲)ですね。
もし失敗してしまった場合、家から何から財産すべて持って行かれるのが経営者保証人のイメージですが、今回のガイドラインで、これが多少手元に残せる余地が出てきました。
ただ、債権者が決めることなので、手元に残って当然的思考では逆に何も残らないことになるでしょう。なぜなら、「誠実さ」がキーになるからです。「あまりに丸裸にするのはさすがに人の道に反するので、多少お目こぼしを与えよう。」という意味合いが強いようですからね。本文ではこんな表記となっています。
経営者たる保証人による早期の事業再生等の着手の決断について、主たる債務者の事業再生の実効性の向上等に資するものとして、対象債権者としても一定の経済合理性が認められる場合には、対象債権者は、破産手続における自由財産の考え方を踏まえつつ、経営者の安定した事業継続、事業清算後の新たな事業の開始等(以下「事業継続等」という。)のため、一定期間(当該期間の判断においては、雇用保険の給付期間の考え方等を参考とする。)の生計費(当該費用の判断においては、1月当たりの標準的な世帯の必要生計費として民事執行法施行令で定める額を参考とする。)に相当する額や華美でない自宅等(ただし主たる債務者の債務整理が再生型手続の場合には、破産手続等の清算型手続に至らなかったことによる対象債権者の回収見込額の増加額、又は主たる債務者の債務整理が清算型手続の場合には、当該手続に早期に着手したことによる、保有資産等の劣化防止に伴う回収見込額の増加額、について合理的に見積もりが可能な場合は当該回収見込額の増加額を上限とする。)、当該経営者たる保証人(早期の事業再生等の着手の決断に寄与した経営者以外の保証人がある場合にはそれを含む。)の残存資産に含めることを検討することとする。ただし、本項(2)ロ)(←経営者に帰責性あり)の場合であって、主たる債務の整理手続の終結後に保証債務の整理を開始したときにおける残存資産の範囲の決定については、この限りでない。また、主たる債務者の債務整理が再生型手続の場合で、本社、工場等、主たる債務者が実質的に事業を継続する上で最低限必要な資産が保証人の所有資産である場合は、原則として保証人が主たる債務者である法人に対して当該資産を譲渡し、当該法人の資産とすることにより、保証債務の返済原資から除外することとする。また、保証人が当該会社から譲渡の対価を得る場合には、原則として当該対価を保証債務の返済原資とした上で、上記ニ)の考え方に即して残存資産の範囲を決定するものとする。
ポイントは、
1.残存資産は一定期間の生計費と華美でない自宅等
2.あくまで事業再生を行う上で意味があり、かつ、私的債務整理の場合のみ
3.経営者所有の事業用資産は、会社に譲渡することにより保証債務の返済原資から外すことができる
4.自宅については、破産ではなく私的債務整理を選択したことによる増加回収額内に収まること
というところです。
先に債権者の意向次第とも書きましたが、留意点として債権者は真摯かつ柔軟に検討すべし、ともありますので、誠実にお願いすれば認めてくれるかもしれませんね。
そして生計費がいくらかという「現金」な話ですが、想定問答集では、1月当り33万円というのがひとつの基準になるようです。
一定期間の「一定」は雇用保険の給付期間が参考として記載されていますので、年齢に応じて90日~330日ということになりますね。
ただし、自宅を残した場合はこの33万円から住居費分を控除することになるようですので、お忘れなく。華美でない住宅の華美の定義は想定問答集にも具体的に記載がありません。私的整理による増加回収見込額という価額が線引きとなるでしょう。
保証債務の弁済計画については、その弁済計画案に盛り込むべき内容が以下のとおり列挙されています。
・ガイドラインを利用する理由
・財産の状況
・弁済計画(原則5年以内)
・資産換価処分の方針
・保証債務の減免、期限の猶予その他権利変更の内容
弁済計画が5年、というのがひっかかりますね。想定問答集では、個別事情により5年を超える期間の弁済計画を策定することも可能としていますが、関係者の合意がとれる前提となっていますので、簡単ではないかもしれません。
それと、保証人が保証債務の減免を要請する場合は、資産を処分して返済してもなお残る部分について免除を受けることを記載する、とありますので、いわば死ぬまで保証債務が残ってしまうという事態からは逃れることができそうです。
上記と似たような話ですが、5.保証債務の一部履行後に残存する保証債務の取扱いについては、基本免除、ということになるようです。債権者は免除要請を受けたら誠実に対応せよとの記載があります。ただし、要件としては、
・誠実に情報を開示して正確性について表明保証すること
・支援専門家が表明保証の適正性について確認し、債権者に報告すること
・保証人の資力を証明する必要な資料を提出すること
・弁済計画が経済合理性のあること
以上の内容があげられています。本文はもっと詳細に記載がありますが、ここではざっくりまとめてお見せしています。
以上がこのガイドラインの概要ということになります。概要としても結構なボリュームになりました。実際のガイドラインはA4で15ページほどのものなっています。日本商工会議所、全銀協どちらのホームページからも取得可能ですので、ご興味あればダウンロードされてご覧いただければと思います。
さて、次回はこれまでのまとめを簡潔にお示ししたいと思います。
それでは。
池田輝之