損益分岐点、という言葉を知らない経営者の方はいらっしゃらないと思いますが、どのように計算するのかについて案外と知らない方も多いようなので、今回は損益分岐点(売上高)の計算方法についてお話します。
ほぼ算数、数学の復習ですが、考え方も含めおさらいしておきましょう。
損益分岐点(売上高)は売上と費用の額が同額で損益トントンになる売上高です。
売上が損益分岐点を下回れば、損失が発生している、ということになります。
■損益分岐点(売上高)の計算式
さて、損益分岐点売上高は、固定費を限界利益率で割って算出します。
算式はこのようになります。
損益分岐点売上高=固定費/(1-変動費/売上高)
変動費とは売上の増減に応じて名前のとおり変動する費用、固定費とは増減しない費用です。
変動費の代表的なものは材料費や外注費、販売手数料や運賃などですね。
固定費はというと、人件費、労務費や家賃などです。
業態によって何を変動とするか固定とするかはまちまちですので、それぞれの事情に応じて区分けをしてください。基本は売上に比例するかというところです。
ここで、(1-変動費/売上高)がなぜ限界利益率かというところを少々。
限界利益は売上高から変動費を引いたものです。
限界利益=売上高-変動費
売上高-変動費は、言い換えれば固定費+利益(利益がある場合)ですね。
なので、限界利益が大きいイコール固定費+利益が多いともいえます。
さて、これを売上高で割ったものが限界利益率ですから、計算式はこうなりますね。
限界利益率=(売上高-変動費)/売上高
(売上高-変動費)/売上高を計算するには、(売上高/売上高)-(変動費/売上高)としますので、(売上高/売上高)は1と略せますね、同額ですから。
とすると、1-(変動費/売上高)。
なので、限界利益率は、
限界利益率=1-(変動費/売上高)
■限界利益率とは
限界利益率は、一般的に数値が高い方が利益を生みやすい体質であるといえます。
ただ、限界利益率を高めるためには変動費を低く抑える必要があります。
例えば、
売上高1億円
変動費6千万円
固定費4千万円
であるとすると、
限界利益率は1-(6千万円/1億円)で0.4(40%)です。
限界利益率を高めるために変動費を低くして固定費に付け替えると、
売上高1億円
変動費4千万円
固定費6千万円
限界利益率は1-(4千万円/1億円)で0.6(60%)になります。
指標は40%→60%と20%改善されましたが、固定費がその分膨らんでいます。
固定費の増加は経営の柔軟性が損なわれることに繋がります。指標“だけ”にフォーカスしないよう注意してください。
■損益分岐点の試算
話を戻して、この限界利益率で固定費を割ったものが損益分岐点売上高なので、先ほどの算式となります。
長い式にすると、
損益分岐点売上高=固定費÷{(売上高-変動費)÷売上高}
言葉にすると、売上高から変動費を引いたものを売上高で割ったもので固定費を割る、となります。
試しに計算してみましょう。
A社の損益状況:
売上高1億円
変動費6千万円
固定費4千万円
計算式は、
損益分岐点売上高=固定費4千万円/(1-変動費6千万円/売上高1億円)
計算をすすめると、
損益分岐点売上高=固定費4千万円/(1-0.6)
=固定費4千万円/0.4
=10000万円
=1億円
なので、損益分岐点売上高は1億円。
はい、上にもどって利益額を見るとゼロ0になっています。間違いないですね。
よって1億円が、A社さんの変動費および固定費が回収される収支均衡売上高となります。
つまり、売上高が1億円を下回ると赤字になります。
■損益分岐点売上高比率
損益分岐点(売上高)を売上高で割ると、損益分岐点売上高比率が出ます。
損益分岐点売上高比率(%)=損益分岐点売上高/実際の売上高×100
利益を出すためにはこの比率が100%を下回っていないといけないわけですが、言い換えれば、100%を下回っていればいるほど経営体力がある、と言えることになります。
損益分岐点売上高は他社比較ができない、しづらいものですが、損益分岐点売上高比率については割合なので、他社比較ができます。
この指標なら業界平均から見て自社がどの程度のポジションにいるのか、知ることが可能ですね。
ちなみに、業界平均を申し上げると、
全産業 93.5%
建設業 96.5%
製造業 91.4%
情報通信業 95.2%
運輸業 96.6%
卸売業 90.0%
小売業 96.6%
不動産業 86.8%
飲食・宿泊業 98.6%
サービス業 94.7%
※同友館:中小企業経営実態調査に基づく経営・原価指標データより
となっています。
自社の損益分岐を計算されたことがないかたは、これを機会に貴社の損益分岐点(売上高)を計算してみてはいかがでしょう?
財務分析に役立つのはもちろんですが、業界の平均値などを自社と比較するなどして、経営の参考にされてみても面白いかもしれませんね。
池田
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