経営コンサルタントコラム 2015年6月22日号

返済はフリーキャッシュフローの8割というけれど。

★フリーキャッシュフローとは何か


金融機関にリスケジュールのお願いをしたりするときに、その返済となる額は、フリーキャッシュフローの80%とするのが一般的といわれます。


いわれます、、が、フリーキャッシュフローっていったい何でしょ?

言葉はなんとなく耳にしたこともある用語かと思いますが、実はわからない、そういった用語の気がします。


フリーキャッシュフローの説明の前に、まず、キャッシュフローとは、というお話をします。


キャッシュフローとはお金の流れ、入と出のことをいいます。


さらにいうと、キャッシュフローのうち、入ってくるほうを、キャッシュ・イン・フロー、出るほうをキャッシュ・アウト・フローといいます。


財務諸表のキャッシュフロー計算書には、


1.営業活動によるキャッシュフロー

2.投資活動によるキャッシュフロー

3.財務活動によるキャッシュフロー


3種類の記載があり、営業キャッシュフローと投資キャッシュフローを合わせたものをフリーキャッシュフローということが多いです。(多いという微妙な表現になっているのは後述参照)


とはいえ、投資活動によるキャッシュフローは基本的にマイナス(投資してお金が出ていくわけですから)なので、合わせる、といっても実際は営業活動によるキャッシュフローから投資分を引くことになります。


財務活動によるキャッシュフローは、借入の増減や株主への配当による支出を表します。


さて、この「フリー」とはどういう意味かといいますと、事業活動により生み出したキャッシュを、資金提供者に自由(フリー)に分配できる、という意味です。


つまり、フリーキャッシュフローは、営業活動と財務活動を足したものですから、できたお金を財務活動(返済なり配当なり)に「フリー」に充てられる、ということです。


しかしながら、会社にとってフリーというよりも、株主や債権者にとってフリー、と捉えるほうが自然かもしれませんね。つまりは向こう側から見た回収原資がフリーキャッシュフローです。


★フリーキャッシュフローの算出方法


お話してきたフリーキャッシュフロー(ちょっと長いのでこれからは略してFCFとします。キャッシュフローはCFと略します。)ですが、キャッシュフロー計算書がない場合はどうやって算出すればよいでしょうか。


中小企業ですとキャッシュフロー計算書を作っている会社さんは少ないと思いますので、なかなかささっと計算することはできません。


実をいうと、営業CF+投資CFという算出方法は簡易的に求める方法なんです。先ほど「FCFということが多い」と言ったのはそういうことです。


簡易的でない求め方は、


FCF=NOPAT+減価償却費-運転資本の増減-設備投資


です。


NOPATとは、Net Operating Profit After Tax、の略で税引き後利益を指し、税引前利益(EBIT:Earning Before Interest & Taxの略)から法人税額を差し引いて算出します。


計算式はこうですね。


NOPAT=EBIT×(1-実効税率)


では、EBITはどうやって算出するかというと、経常利益に支払利息を加えて戻し、受取利息を差し引きます。利息のプラスマイナスをないものとするわけですね。


つまり、EBITは金融収支前の経常利益ということになります。

なのでこうなります。


NOPAT=(経常利益-受取利息+支払利息)×(1-実効税率)


そして、現金収支を伴わない減価償却費を足し込みます。


次に運転資本の増減を足し込ますが、運転資本とは運転資金のことで、計算式は、売上債権+棚卸資産-買入債務、です。

運転資本の増加はCFのマイナス要因なので、増えればマイナス、減ればプラスとします。


運転資本=売上債権+棚卸資産-買入債務


設備投資をマイナスするのは、費用として計上されてはいないものの、キャッシュの流出はあるからです。


まとめると、


FCF=(経常利益-受取利息+支払利息)×(1-実効税率)+減価償却費-(売上債権+棚卸資産-買入債務)-設備投資


となります。


★簡便なものと本来のものとの違い


あれ、なんか気持ち悪くありませんか?

最初に出てきた営業CFと投資CFを足したのもFCFでしたよね。


でも待ってください。


営業CFは当期利益から減価償却費他もろもろを足し引きして求めているものです。つまり、本来債権者に分配すべき支払利息も、差し引かれた数字になってます。


そうなんです。


FCFは債権者など資金提供者に「自由に」分配できるものであるという定義から鑑みますと、本来、支払利息を差し引いてはいけないんですね。二重に分配することになってしまいますので。


びっくりなことですが、つまり、FCFには二つの算出方法があるんです。

一方は簡便なやり方で支払利息が差し引かれたもの、もうひとつは、企業価値算定で用いる本来的なやり方で支払利息が引かれていないもの(債権者に「フリー(自由)」に分配できるもの)がある、ということになります。


同一用語で違った結果が導かれるわけですね。


簡易版をFCFとか言っちゃうからこういう面倒な事態になるんだから、言わなきゃいいのにと思ったりもしますが、でもまあ、試しに計算してみましょう。


前提は、


売上  10000

原価   7500

販管費  1500(内減価償却100)

営業利益 1000

支払利息  100

経常利益  900

税前利益  900

法人税等  360(実効税率40%として)

税後利益  540


売掛金増減   50  

棚卸資産増減  50

買掛債務増減▲100


設備の取得 500


こんな感じとしましょう。(なかなか業績順調そうですね)


では簡便な方法から試算してみましょう。


営業CFは当期利益540に減価償却費を足して、流動資産の増加分(売掛と棚卸)を引き、流動負債(買掛)の増加分を足します。


当期利益 540

減価償却費100

流動資産▲100

流動負債 100


と、営業CFは640


設備取得を500してるので、投資CFは▲500


営業CF+投資CF=140(簡易FCF)


となります。


さて、


それでは、本来の意味でのフリーキャッシュフローを計算してみます。


算式はこうでした。


FCF=(経常利益-受取利息+支払利息)×(1-実効税率)+減価償却費-(売上債権+棚卸資産-買入債務)-設備投資


あてはめますね。


FCF=(経常利益900-受取利息0+支払利息100)×(1-実効税率40%)+減価償却費100-(売上債権50+棚卸資産50-買入債務100)-設備投資500


 =1000×0.6+100-0-500

 =600+100-500

 =200


FCFは200ですね。

簡易計算との差異は60。


簡易FCF140>本来FCF200


支払利息がなかった場合の営業CFは700ですから、


営業CF700+投資CF▲500=200(FCF)


本来の算出と同額になりますね。

つまり、支払利息の有無がこの差を生んだことになります。


なぜ差額が60なのかというと、これは支払利息の費用計上により税金減った分ですね。

支払利息は100ですから、含めるか含めないかで税前利益は100違うわけです。ついては法人税も100の40%分だけ減ります。

費用が100増えたからといって、利益も100減るわけではない、というのが理解の難しいところです。


税前利益 1000

法人税等  400(実効税率40%として)

税後利益  600


↓費用(支払利息)100増加、ゆえに税前利益100減少


税前利益  900

法人税等  360(実効税率40%として)

税後利益  540


でも利益は60しか減らない。


ということは、つまり、簡易なFCFの求め方をした場合、FCFの8割というと元本の返済額を意味し、一方、本来の意味のFCFを頭に置いていた場合、FCFの8割は元利合わせての返済額、ということになります。


一般に金融機関に求められて返済計画なんぞを作る際は、簡便なFCFのほうをFCFとして使ったほうがよいです。金融機関もFCFというときは簡便なFCFのほうを指していることがほとんどですので。


本来のFCFをイメージしたまま金融機関さんと折衝するとズレちゃうことになります。(実は最近そのようなことがあった)


A社長「FCFの8割を返済します」(8割で元利返済だよ)

B行員「わかりました」(8割が元本返済分だな)


お互いFCFというワードの定義が違いますから、その場では良いものの、計画策定の段階で話がトンチンカンになっちゃいます。利息の話が置いてけぼりになってしまうんですね。


以上、フリーキャッシュフローについて、その意味と計算方法、改善計画等で使用する場合の注意点について述べてきました。


ご参照いただいて、今後の金融機関交渉等に活かしていただければ幸いです。



池田

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