一方、会社分割の再生スキームは、上記のような事業譲渡に関する課題(詐害性を問われる、代価が発生する。)を解決できる、債務逃れの方法として、登場しました。
もともとは組織再編の法律ですので、あくまで組織変更であり、詐害行為の範疇外となることが課題から逃れられるという触れ込みです。
事業譲渡と同様に債務を残し、事業を移す的な債務逃れのスキームとして利用されたのですが、その違いは対価として金銭が絡まない、詐害取消リスクがない(ように見えた)ということです。
会社分割は単純に事業を子会社化するだけの話ですので、切り分けた場合は子会社株式を親会社が持つだけです。事業を移してもそれが子会社株式に変化しただけで、企業としての資産が減少したわけではありません。
ゆえに、分割されて設立した会社に債務が移らない場合については、債権者を害することにならず、債権者保護措置(債権者に通知する)をとる必要がありませんでした。
つまり、事業だけ別の会社に移すことを「黙ってやれた」わけです。
しかも合法的に。
ただ、子会社の株式が親会社にあるのだからいくら事業を移しても債務から逃れたわけではないだろう、という疑問も湧きます。
たしかにそうなのですが、子会社が親会社の債務の連帯保証をしているわけではありませんし、親会社が差押えられ、子会社株式も差押え、換価の対象となったとしても、誰が買いますか?という話です。
株式の譲渡制限だってあるでしょうし、売却して処分するのは大変です。現実的には当該子会社の役員とかに買ってもらうより仕方ないでしょう。
実質的に債務から逃れることができちゃうわけです。さらにその子会社の株式を親会社が売却してしまったらもう捉えようがありません。
そのような理由で、会社分割は(合法的に)債務から逃れられる(ように見える)方法でした。事業譲渡と比べ、詐害など言われるリスクもなく、スキームとしてはよくできていたと思います。
さはさりながら、債権者にとってはたまったものではありません。
いくらよくできたスキームといえども、とどのつまりは債務逃れを目的としている訳です。
会社分割という組織再編法制度の悪用?ともとれるような方法論ですから、これは黙っているわけにはいきません。
そして裁判になりました。最高裁まで行った長い裁判でしたが、結局は債権者を害する、つまりは債務逃れする目的での会社分割は認められませんでした。
会社分割のミソは、設立子会社に引き継がれない債務の債権者には特段通知する必要がない、ということです。
先にも書きましたが、事業価値が子会社株式に転化しただけですから、資産上の毀損はないわけです、会社分割しても。
本来的には子会社株式差押えて、配当貰って回収にあてればいいじゃんか、という収益執行的な回収の方法かなとは思います。(配当は税引き後ですけど)
ただ、銀行というのは株式を簡単に持てないという事情があるんですね。そんなことしたらすぐコンツェルン化しちゃいますので。というわけで、実質債務から逃れることができてしまうんです。
今でこそ判例が出てますが、それも「判例なんて、どうくつがえるかわからんじゃないか」というチャレンジングな人達にとっては意味のない話。そもそも抜け穴がばっちり空いているので止めようがないわけです。
今回の会社法改正ではその抜け穴を防ぐ格好で条項が新設されました。
内容的には事業譲渡とほぼ同じで、債権者を害することをわかっててやった場合、債権者は分割設立会社にも返済を求めることができますよ、と書いてあります。
要は、事業譲渡も会社分割も債務逃れできることを知ってやったら皆アウト、ということです。
知ってたら、というところについては、債務超過状態で譲渡だ、分割だ、というスキームを仕込んでいる時点で知らないとは言えないでしょう。そもそも意味がわからずやるような代物ではないですから。手続の煩雑さ含めて。なので再生スキームで使った時点で「知っている」とみなされる可能性は高いでしょうね。
とはいえ、GOOD/BAD切り分けの再生スキームは必要です。
再生の足かせとなるような負債は置いておくにこしたことはありません。(無論払えるなら払うべきですが)
ならば、債権者を害さないようなスキーム、払うつもりあるよ、そういうスキームにしてあるよ、という見せ方、見え方が必要になる、ということになります。
最近は営業利益自体が出ていない会社も多く、また、債権者もリスケ等の金融支援に応じてくれる環境のため、あえてB/Sをいじる、事業譲渡や会社分割スキームを使うことが少なくなってきましたが、やはり、根本的な解決にはこのような債務圧縮を図る方策も必要です。
いざ、というときは、金融機関を敵に回さず、上手に巻き込んで再生を図ってまいりましょう。
究極的には、銀行も会社も呉越同舟、です。
池田
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