■ガバナンスとオーナーシップ
とはいえ、日本のほとんどの中小企業は、株式会社で100%株主が代表者という、オーナーが社長というパターンです。
所有と経営が分離してないわけです。
株式も譲渡制限がかかっていることが多いです。(ほぼ100%かも)
ということは、所有と経営が一緒で、かつ、異動しない、ということを意味します。
まったくもって株式会社である必要はありませんね(苦笑)
とはいえ、そもそも株式会社であるところ、わざわざ合同会社に変更するというのは無駄な作業の何ものでもないでしょうが。
所有と経営が一致していると、何やったっていい、という思考につながりやすいものです。
よく聞く、「所有者は社長たる自分なのだから、リスクは自分が負っている。だから好きにしていいのだ。」という理屈です。
好きに経営して潰したらオーナー社長は自分の責任だしまあ仕方ない、ですが、職を失う従業員さんはうかばれませんね。従業員さんはリスクに見合う給料など得ていませんし。どうしても翻弄されてしまう損な役回りになってしまいます。
そもそもそういう会社には勤めるな、ということも言えるでしょうが、株式会社の場合は外面的に100%オーナーかどうかの見極めはできません。登記簿に株主構成は載りませんからね。
合同会社と名乗っていれば、まあそういう会社かもしれないね、という予想も働きますが、ほぼすべての会社が株式会社ですからこれも難しい話です。
就職面接で資本構成は?とか聞けませんしね。上場企業に勤める以外にそういう好き勝手経営からの倒産・失職リスクからは逃げられません。
さて、何が言いたいかというと、所有と経営が一致していると、倒産リスクが高まりますよ、ということです。
要はガバナンスが効いてないわけです。
株主が社長ですから、経営を監視する人がいないのですね。
人間誰しも間違いは犯します。失敗しない人、全ての判断をパーフェクトに行える人などいません。
その前提に立った組織運営をしていかないと倒産リスクが高まることになります。
上意下達なワンマン経営は成長のスピードを速めることにも繋がりますが、一歩判断を間違えれば変更が効きません。攻めに強く守りに弱い組織になります。
守りに弱いわけですから、倒産リスクも当然高いことになります。
また、他人の意見が入ってこない組織というのは多様性に欠け、変化に弱い組織になります。
株式会社には取締役会という機能があります。取締役が3人いれば取締役会設置会社になることが可能です。経営に重要な事項は取締役会の多数決で決めることにより、経営に対する相互監視を行うことができます。ひとつリスクを軽減できる方法です。
しかし、取締役は株主総会の承認がなければ就任できませんし、株主がNOといえば解任だってできます。つまり、オーナーさんの胸先三寸でどうにでもなってしまう仕組みです。
気に食わない意見を言うヤツはクビにできちゃうのですね。
そのような状況では誰も反対意見など述べないでしょうから、本質的にリスク回避できているかといいうとそうではありません。
更にいうと、取締役会を設置していない会社もあります。
この場合は代表取締役が重要な経営判断を社長一人でできます。取締役の意見を聞かねばならない(イコール役員会を開かねばならない)義務はありません。
オーナーシップも持っているとするとまさに「朕は国家なり」的なワンマン体制ですね。
「だからそのリスクは所有者であるオーナー社長さんが負っているんだから問題ないだろう」という意見もあるでしょう。
たしかにそうです。が、潰れて最も困るのはオーナー社長さん自身です。
社長業をやっていて一から従業員で働ける人がどれほどいるでしょうか。
たいていはタクシー運転手さんとか掃除夫さんとかあまり会社組織内部で働くような仕事以外の仕事に就かれています。(かく言うご職業が勧められない、という意味ではありません。社長業との落差という意味で例示しています。)
天に唾吐きゃ自分に返る、わけですから唾が顔にかかりたくなければ吐くのをやめるのが自分のためにも得策です。
つまり、誰かしから耳痛い意見を聞かねばならない状況を作っておいた方が、倒産リスクを下げられますよ、他人の意見に耳を傾けた方が得ですよ、という話です。
株式は過半数持つべき云々などナンセンスです。
自分にありがたい意見を言っていただける人が多くいて、しかもある程度の賛同を得なければいけないとなれば、慎重になります。
スピード感が無くなるという意見の方もいますが、判断にスピードが必要かどうかの判断も正しいかどうかわからないから他人の意見が要るのです。
■自分に箍(タガ)をはめる
人間はいろいろな政治体制を経験してきました。
今現在一番繁栄しているのは民主的な国家です。
ヒトラーやムッソリーニしかり、ソ連や東欧共産圏しかり、独裁体制はいずれ崩壊する運命です。
一人の有能な人材に頼っても結局間違いを犯し、軌道修正できず崩壊していくのは人類の歴史上明らか、普遍のものでしょう。
所有経営一致のワンマン体制も独裁です。歴史を参考にしても生き残れる体制ではありません。
独裁は拡大も縮小もスピード感抜群、つまり、社長が判断を間違えた瞬間に会社は終わります。
更にいうと、独裁を維持しつつも誤った判断を避けるためには、自分を裸の王様に仕立てようとする輩と対峙しなければなりません。
イエスマンばかりの取り巻き連中は経営にとって何の役にも立ちません。むしろいるだけ悪です。
しかし、かく言う輩の甘言はとても気分のいいものですから、自分に箍をはめ、頚木をかけるのは並大抵のことではありません。
なにせ甘言は心地良いのです。
さて、それでは会社を倒産のリスクから遠ざけるためにはどうすれば良いか。
株式会社であれば他人に株式を持ってもらうことです。そして社長自身もその過半数を持たないことです。自分の意見に同意してくれる株主がひとりでもいなければ事が前に進まないという状況を株主構成を以て作っておくことです。
取締役会を設置する程度では意味がありません。
先にも申した通り、取締役を選任・解任するのも株主だからです。
株主構成をいじらない限りは逃げ場が出来てしまいます。
経営にスピードも大切ですが、アクセルがあればブレーキもなければいけません。
決して楽な方法ではありませんが、信頼できる方に株主になっていただき、意見をいただけるような環境を整えることは大切と感じます。
実務的には普通株式のみならず、種類株式やストックオプション(潜在株)などの活用も検討、所有面のカバーの仕方も工夫していくことになろうかと思います。
イメージとしては、所有と経営の間に意思決定を別に設ける感じです。所有・経営・決定の三権分立とでもいいましょうか。これなら従来通りの所有は維持したまま、意思決定リスクを回避する(裸の王様化を防ぐ)ことが可能でしょう。
自分に箍(たが)をはめるような話で、簡単ではないのは容易に想像できます。
が、裸の王様や独裁者になりたくなければオーナー社長自身で手を打つしかありません。
事業継続性を維持するためにはどうすればいいか、一度考えてみませんか。
池田