経営コンサルタントコラム 2017年1月25日号

退職金が会社を潰す

経営者の皆さん、退職金の準備はできていますか?といっても自分のこと(社長さんの役員退職金)ではなく、従業員さんへの普通の退職金のことです。

 

ところで、その退職金があなたの会社を潰すことがあるってご存知ですか? 今回は「なぜ、どういう場合に、してその対処策は?」というところをお話ししていきたいと思います。

 

さて、最近の会社さんではあまり見かけなくなったのですが、社歴の長い会社には、必ずといっていいほどあるもの、それが退職金規定です。

 

退職金は、国としても税金面(所得控除がすごいデカイ)で後押ししていたという政策的な背景もあり、社歴の長い会社には大抵、退職金制度があります。

 

所得税がどんだけ安くなるかという計算はこちら↓(注:ざっくりです)

 

①所得控除額の計算(30年勤務、退職金2000万円)

退職所得控除額 800万円+70万円×(30年-20年)=1500万円

退職所得金額(退職金2000万円-控除額1500万円)×50%=250万円

 

②所得税額の計算(その年の給与が1000万円と想定)

(1000万円+250万円)×33%-153.6万円=258.9万円

退職所得控除が無かったとすると。。

(1000万円+2000万円)×40%-279.6万円=920.4万円

 

なんとその差661.5万円!

 

雇用側としても、転職をバンバンされて、せっかく(カネかけて)育てた大事な大事な人材、を外部に流出させたくないわけでして、できれば、ずーっと内部に囲っておきたい、そんな囲い込みツールとしての意味もあった退職金制度でございます。

 

とはいえ、給与の後払いの側面がある退職金制度なので、転職が当たり前になった昨今、時代になかなかフィットしなくなってきました。

 

時代の流れ的には、未来の退職金よりも今現在の年俸や月給を重視する風潮にありまして、最近の会社さんは退職金規定がなかったりすることが多いです。いまだ税金面では退職金の方が得ですけどね。←時代の流れに制度が追いついていない

 

退職金規定がなければ、当然退職金を支払う必要もなく、お金が出て行くこともありません。

逆に言うと、退職金規定があれば、当然退職金を支払う必要があり、お金が出て行くことになります。

 

さあ、本題に入ります。

 

たとえば、あなたが退職金規定のある会社の社長だったとします。

あなたが社員と揉め、全員が辞めるような騒ぎになりました。(最低の出来事ですが。)

あなたの会社は今、従業員全員分の退職金を払えますか?

払えなければ、どうなると思います?

 

「無い袖は振れないんだから、払えないの一点だ!」

「退職金を払うような働きをしていないのだから、そもそも払わない!」

「払いたくないから全員懲戒解雇だ!」

「あんなやつにはびた一文出してたまるか!」

 

というお考えでしたら、それは残念ながら倒産一直線です。

退職金規定があるなら、払わないとダメ、絶対、なんです。

 

払わないといけないもの=債務

ですよね。

 

なので、支払うべき退職金は、買掛金や借入などと同じ債務です。

債務が払えなければ、会社は潰れます。

 

つまり、退職金も支払えなければ、会社は潰れます。

 

いかがでしょう?

退職金で会社が潰れることがある、ということをお分かりいただけだでしょうか。

 

無論、実務的には社員さんと話合って分割してもらうとか決めてくことになりますので、潰れるまでいくことは稀な話ですが、しかし、これはつまり、社長さんが従業員さんにお願いする話なんです。

 

揉めに揉めて、ある意味クビにしたのに、反抗にあってむしろ立場が弱くなるという情けなさ。。なかなかツライ立場ですね。痛々しいといいますか。なんともいたたまれません。

 

そのような払えない、という(弱い)立場をわきまえず、社長目線の上から目線で、ロクに話し合いもしないで、どーんと支払い要求を突っぱねてしまうと、破産を申立てされて(債権者からも破産は申立てできるんです)、信用ガタ落ち、業績ガタ落ち、会社も無くなる、という負のスパイラルに陥ります。

 

大抵の契約の解除条項には、破産申立られたら一方的に解除、破棄できると規定がありますから、破産となれば、普通取引先を失うことになります。

 

更に怖いのは、銀行です。

期限の利益喪失事由にあてはまり、一括で返済しろ、という話になります。(一度借入の契約書を見てみてください。しっかり書いてあるはずですから。)

 

つまり、倒産です。

 

個人で連帯保証などしてれば一晩にして文無しです。(大抵してる)

いやはやこわいですね。

 

円満退社、なんて言葉がありますよね。

そんな言葉があるということは、逆も多くあるからですね。

つまりは非円満退社です。ようはけんか別れ。

 

そのような状況で退職金分割払いにしてくれ、なんて頼めますか?

どうやってもメンツが立たないですよね。

 

退職金分の現金を用意しておけばそのような悲しい思いをせずにすんだものの、準備が甘いから、無念な結果になってしまったわけです。(お前ら全員クビだ-!と叫んだら、逆に自分のクビが飛んだという笑えない話)

 

「そんな、いつ起こるかわからないことの準備なんてできるか!」

「業績だってそんなに良くないぞ!カネだってないぞ!」

(全くもって威張れる話ではありませんが。。)

 

と、ついつい憤ってしまう社長さんもいることでしょう。

わかります。ええ、ええ、わかります。

 

でも火災保険入ってますよね?生命保険も入ってますよね?

準備できてるじゃないですか。

 

では、なぜ退職金は準備しませんか?

 

退職金というのは将来債務なんです。しかも確実に発生する。

確実に発生することがわかっているものなのですから、準備しなければダメです。

 

これは会計上の引当をせよ、ということではありません。

カネを準備しときなさいよ、ということです。

会計上の引当は、うちの会社にはこんな債務がありますよ、と、あくまで、外に見せるためにこさえるものであって、引当金勘定があろうがなかろうが、お金がなければ払えません。

 

だから退職金の原資を作らなければならないのです。

 

しかし、これは簡単じゃないです。

お金はあったら使いたくなりますし、退職金準備のためコツコツ貯めていく、といってもこれはなかなか難しい、骨が折れる話です。

資金繰りが厳しくなれば、どうしたって使いたくなりますし、ある程度のまとまった金額が貯まってくれば、投資やなんやかんや使いたくなるものです。

 

つまり、貯金の難しさと同じなので、天引き、積み立てみたいなことができるといいんですね。

そんな仕組みあるのか?というところですが、これがあるんです。

 

それは、中小企業退職金共済です。

 

こちら、中退共(ちゅうたいきょう)と略して呼ぶことが多いです。

運営は国の機関である、(独)勤労者退職金共済機構でして、とりあえずわけのわからんところではないので信用性も抜群、安心です。

 

↓制度の説明(公式)

中小企業退職金共済制度は、中小企業の事業主の相互共済の仕組みと国の援助によって、手軽で、安全・確実に退職金制度を確立して、従業員の福祉の増進と企業の振興に寄与することを目的に中小企業退職金共済法に基づいて昭和34年に発足した制度です。

 

こちら、実は掛金が全額損金計上できます。

退職給付を引当てても原則損金になりません(翌1年分は可)が、こちらであれば損金になり、税金の節約にもなります。

 

詳細パンフはこちら↓からダウンロード

http://www.chutaikyo.taisyokukin.go.jp/download/pdf/aramasi.pdf

 

掛け金月額も5千円~3万円まで選べますし、(諸条件ありますが)減額変更もできます。

 

天引き、自動引落の制度を利用できるだけでもありがたいのに、さらに、新規加入者には国の補助もあるという手厚さ。

 

退職金規定がある会社の経営者さんで、資金準備がまだの方は絶対チェックしておくべきです。

準備は早いに越したことはありません。

 

退職金の支払原資がなくて従業員に潰されるなんて脅しめいたリスクをご紹介しましたが、M&Aが盛んになってきた昨今、きちんと手当しておかないと会社の価値がズドーーーーンと下がってしまうなんてリスクも更にはあったりするわけで、こちらからも目をそらすわけにはいきません。

 

たとえば、あなたが「歳も歳だし、後継者もいないし、ぼちぼち儲かってるけど会社どうしようかなー」なんて考えていたとします。

 

M&A(会社売却)なんて方法もあるよ、なんてことを聞きつけ、じゃあ売っちゃうか!ということになり、仲介屋さんに売却価格を見立てもらったとします。

 

「収益的にあなたの会社は1億円の価値がありますよ」と色良い返事をもらっても退職金積不足が5千万あれば、その分だけ価値は(貰えるお金は)少なくなり、価値は半分になってしまいます。

 

いやはや残念ですねぇ。。

積み立てておけばそんなことにはならなかったのに。。

 

じゃあ売るのやめて廃業するか、と言っても退職金は払わねばなりません。

資金が用意できなければ、資産より負債の方が多いという話になり、破産しないと廃業もできません。結果、同じようにお金は残らない、と、また無念極まりない話になります。

 

なので、退職金規定があるなら、やっぱり月々の積立、特に中退共、がおすすめです。

 

これを機会に導入を検討されてみてはいかがでしょうか?

きっと社長さん、従業員さん、双方のプラスになりますよ。

 

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