消費税率の引き上げが再延期されましたね。
「景気が上昇してないから延期したわけで、アベノミクスは失敗だ!」というかたもいらっしゃるようですが、実は、景気自体の流れは良い感じとなっています。(景気って「気」というくらい、そもそもあいまいなものなので、こんな表現になってしまいますがご容赦。)
実際、倒産件数はアベノミクスの始まった2012年から2割減少してますし、景気動向の指数であるCI一致指数は、急上昇しています(2015年は横ばいですが)。
税収も増加しましたし、株価も上がっています。
となると、アベノミクスの評価としては、よくやってるんじゃないか、と言わざるを得ませんね。
なので、せっかく上昇してきた景気にもう一度冷や水を浴びせるような消費税率UPは、さすがの安倍さんもしないでしょう。2014年に5%から8%に上げた影響からか、2015年は景気上昇に蓋した感じになりましたしね。
ただ、世の中には、景気がどうなろうと消費税率を上げられれば良い、というかたたちも一定割合いらっしゃいます。(とにかく政権のやることにゃなんでも反対の方もいますけど)
それぞれ立場や考えが違いますので、否定する話ではないのですが、こと「景気」というものを一番に考えるとすれば、今、消費税率は上げるべきではないでしょうね。
まあ、アベノミクス、うまくいっているわけです。
いまのところはとりあえず。
でも、景気上昇している実感がないんですね。
この「実感」が伴ってこないと、グワグワッと不平不満の雲が広がっていきます。
いまでも多少は報道でも見ますよね、「トリクルダウン※は起きない」とか。
※「トリクルダウン(trickle down)」という表現は「徐々にあふれ落ちる」という意味で、大企業や富裕層の支援政策を行うことが経済活動を活性化させることになり、富が低所得層に向かって徐々に流れ落ち、国民全体の利益となる」とする仮説(ウィキペディア)
トリクルダウンが起きていない、つまりは「お給料が上がってない」んですね。
アベノミクスで景気は上向いてきていますが、給料が伴っていないんです。
だから実感がわかない。
景気と賃金の関係をグラフにしてみました。
景気動向指数は内閣府が出している「国民経済計算」から。賃金は国税庁の「民間給与実態調査」が元ネタです。倒産はTSRさんの「全国倒産状況」のデータです。
景気動向指数にはCIとDI、2つの種類がありますが、今回はCI一致指数を使用しています。
その理由は、CIは景気変動の大きさやテンポ(量感)を、DIは景気の各経済部門への波及の度合い(波及度)を測定することを主な目的としているためです。
一般的に、CI一致指数が上昇している時は景気の拡張局面、低下している時は後退局面であり、CI一致指数の動きと景気の転換点は概ね一致します。CI一致指数の変化の大きさから、景気の拡張又は後退のテンポを読み取ります。
全体の流れを見るため、データは1985年から見ています。
ちょうどバブルの発生直前ですね。
さて、グラフを眺めてみますと、バブルが始まった1986年からCI一致指数が急上昇しています。さすがバブルですね。
指数の上昇に合わせて、賃金もうなぎ上りに上昇しています。
バブル前の1985年には351万円だったのが、バブルの崩壊が始まった1992年には455万円と約100万円のアップ!
これは実感出ますよね。
世間のニュースで景気が良いという話で、自分の懐もあたたかくなれば、景気拡大の実感も湧きます。
しかもなぜだか1997年までゆるやかながら上昇をつづけ、ピークの467万円を記録します。
景気的には1992年に崩壊が始まって2002年まで、いわゆる「失われた20年」に突入していくことになります。
景気指数は急降下のち低空飛行、倒産件数もうなぎ上りかつ、高め安定です。
戦後最大の倒産件数を毎年更新していくような状況ですね。
固定費である給料もさすがに、1997年をピークに下降局面に入ります。
2002年には450万円を切りました。
で、2003年からITバブルやファンドバブルと揶揄される「いざなみ景気」が始まります。ちょうど小泉政権のときですね。
景気指数も、もうバブル期なみに急上昇しています。(ちなみに、そのあとリーマンショックがやってきて上昇以上の急降下となります。驕れるものも久しからず。。)
ただ、バブル期と違って給料がまったく上がりません。
というかむしろ下がっています。
いざなみ景気、好景気、といっても、これでは実感湧かないですね。
自分のお財布はむしろ減ってくわけですから、好景気とは逆に庶民にとっては不平や不満がたまりやすいことになります。
小泉さんに拍手喝さいしたり、ホリエモンに代表されるような成功者に対する、やっかみに近いような世間からの風あたりというのも、そういうところに起因しているんじゃないか、と思います。
そして発生したリーマンショック。2008年ですね、もう8年前の話です。
景気は急降下、倒産件数もバブル崩壊時期と同じくらいまで増加しました。
給料も落ちたのですが、バブル崩壊時と違って景気の下降カーブと同じように落ちています。
給料は基本的に固定なので、急激に上下しないものです。バブル崩壊したときも賃金の変化は緩やかでした。上げるのはできても下げるのが難しい費用なわけですね。
これは固定給ではない人が増えた、ということを意味します。
また、正社員でない人が増えた、とも言えます。
でなければ、景気指数に合わせて給料が減少することはありません。
人件費が固定でなく、景気に合わせ調整できるようになったのはこのときが初めてです。
さて、リーマンショックからなんとか持ち直したところで、震災があり、政権が民主党から自民党に交替し、2012年からアベノミクスが始まります。
前述のように、2012年から景気指数は上昇し、倒産件数もどんどんどん、と減ってきています。
これを見る限り、まちがいなく景気は良くなっています。
でもなぜ実感がない、とされるのか。
給料がほとんど上がってないからです。
1997年以降、給料はずーーーーと下がりっぱなしです。
ちなみに年収で50万ほど減りました。
アベノミクスの効果で減少が底打ちしても、上がるまではいっていない現状です。
やはり、自分のお財布が温まらないと、いくら景気が良いと言われても実感はできませんよね。実際目に見える恩恵を受けていない(減少が止まったという意味では受けているのだが)ですから。
雇用形態の変化により、景気が落ちたときは下がる給料、景気が上がるときには上がらぬ給料、という構造も問題です。下げるなら上げる、上げぬなら下げぬ、というどちらかの造りにするべきですね。
人手不足も嘆かれている今、アルバイトの時給も上昇しています。
企業にとっては売上の伸び以上に(下手をすると、売上は減少しているのに)人件費が上昇している厳しい局面かと思います。ただ、ここを我慢できれば好景気の世界が広がっている可能性もあります。(オリンピックもありますし)
これからのアベノミクスがどうなるか、景気が本当によくなっていくかは、給料の上昇が起きるかどうかにかかっていると思います。
安倍さんもわかっていることかと思いますし、賃金上昇を(政策的に)どうやって実現していくのか、これは非常に興味深いところです。(トリクルダウンのように自然に流れることは起きないことは明らかですからね)
これが実現できなければ、庶民の不満は募り、政権も安泰ではありません。
さて、どうするか、どう策を練るか。
チーム安倍の腕の見せ所ですね。
池田
次の記事▶戦略と戦術・戦法